よたか2012.11.12 01:21:55
大学からラグビーを始めた息子が楽しそうにプレーしてるので、一度題材にしてみたいと思っていたところ、「即興小説トレーニング」にピッタリなお題が出て来たので、喜んで使いました。お題は「来年の汗」父親目線の作品ですけど、読んでいただけるととても嬉しいです。
ノーサイド【1】
===============
ノーサイドの笛がなる。14対15。市立大学ラグビー部は、国立工業大学ラグビー部に僅差で負けてしまった。
大学ラグビーBリーグ最終戦。2位と3位の直接対決。
引き分けのままなら市立大学が2位でAリーグへの入れ替え戦に望む事になったのだが、試合終了間際に工業大学にひっくり返されてから、かなり遠目からキックを蹴るも届かずそのままノーサイド。
工業大学の選手たちは、入れ替え戦1試合を残しているが、今年で引退する市立大学の選手達はそれで終わり、コレからの人生で、ラグビーをやる事なんてないだろう。
現役でプレーを続け、練習し、試合で走っているときは気がつかないかもしれない。
15人がいや、30人以上の人間が集まってラグビーする事はとっても特別な事だと言う事なのに、その事に気づくのは、引退してラグビーからはなれたずっと先の事。
そしてその時に後悔が訪れる。
もっと練習して置けば、もっと走れば、もっと汗をかけば……。
しかし、いまピッチで歓喜する15人も涙する15人も、他の事なんて考えていられない。
たった今終わった試合の結果しか見えてない。
試合の途中から降って来た雨で選手達のジャージは背番号も見えないくらい汚れている。
試合後のあいさつが終わり、選手達がスタンドに駆け寄り、あいさつをする。
遠くのスタンドでは、主将が声を出したあと、スタンドに居る関係者が湧き、マネージャー達が歓喜の涙を声を上げた。
こちらでも、主将が絞り出すように声を出す。
「応援ありがとうございました」
そう言ってから、並んでいる選手がひとりずつ膝をつく。マネージャー達も泣いている。どんな事を言っても後悔にしかならないから誰もなにも言わない。
「お疲れさま」スタンドからOBが手を叩きながら選手達をねぎらう。 絞り出す様な声で。
もう一度、立ち上がり主将は、スタンドに向かってお辞儀をする。1年生部員達も立ち上がる。2年生と3年生部員達は4年生部員達に肩を貸す。
選手達がもう一度頭を下げると、スタンドからもう一度大きな拍手が送られた。
引退する選手と、残る選手、来年流す汗は違うモノかもしれないけど、今ココで一緒に感じた気持ちは無駄ではないはず。
スタンドでいた私は涙を抑え、4年間がんばって来た息子たちに向けて、力一杯拍手を続けた。