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PIXIV SSB参加作品「世界が変わる時」

よたか2012.11.03 13:50:14


PIXIVのSSB(週末小説バトル)が停滞してしまってから、ちょっと書く気力に失せていたのですが、形態を変えてまたスタートする事になったので、あらためて参加させていただく事にしました。

その一作目がこの「世界が変わる時」です。

先日、アメリカ人と世界情勢とか、アメリカ人うるせーとか言い合いしてるなかでどうしても答えられなかった質問がコレを書くキッカケです。
「日本のアニメって何故子どもが主人公なの?」

アニメ好きの私は、考え込むだけで明確な答えを出す事できなかったんです。

そして、ユニセフから送られてきたニュース「少年兵のレポート」。
この2つを結びつけた時に、自分なりのアピールが出来るのではないのだろうかと考えて書いてみました。

正直、この重いテーマを扱うには、まだまだ文章が未熟なのはわかってます。
でも、いま一番書きたい内容なので思い切って書いてみました。

もしお時間がございましたら、こちらから是非ごらんください。

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 うちの親が少し変わっていると気づいたのは、中学1年の英語の授業の時だった。
 先生が出したちょっと難しい問題に、簡単に答えた時クラス内にどよめきが起こった。すると英語の先生が、突然英語で話しかけて来た。
「どうして、そんなにきれいな英語を使えるの?」みたいな内容で、
「うち、たまに英語しか使えない時があるんです」と答えたと思う。
 両親の趣味で、よく外国の人がステイするのだけど、誰かがステイしている時は、うちの家の公用語は英語になる。
 それが特別な事だと知ったのが、中1の英語の授業の時間だった訳だ。

 いままで色んな人が滞在してきたけど、外国の人はだいたい面倒な人が多いと僕は思ってる。
 やたら正義と愛国心を振りかざすアメリカ人。罠を仕掛けるように話すイギリス人。ラテン系の人たちの多くは騒がしいだけで話にならないし、頑固な中国人にもアキアキしてた。
 だけど両親は『文化の違いを肌で感じるのはとても楽しい』とか『自宅にいながら世界旅行気分』とか言ってる。
 ある意味、うちの両親は世界系だ。

 少しだけうんざりはしてたけど、忘れられない人たちだって何人も居た。3帖ほどの狭い部屋、背の高いパイプベッドの下に置いてある、僕の机の中には、そんな人たちの思い出の品がいくつもある。
 写真や、いろいろな国の小物が多いけど、その中に写真雑誌が一冊ある。
 アフリカの戦場で撮影された写真には、少年兵が何人も映されていた。敵陣へ突入する少年。敵陣からの弾丸を受けている姿は、踊っている様にも見えた。
 多分アメリカの雑誌だけど、コレを置いて去ったのはドイツの男性カメラマンだった。


 彼は、世界中の子どもの写真を撮影して旅をしていると言っていた。そんなんで食っていけるのか疑問だったけど、人にはそれぞれ事情があるので、そんな事は聞かない。
 当時、中学生の僕は両親の趣味に付き合いきれなくなりはじめて、試験勉強とか、読書中だとか適当な理由をつけて、部屋で食事をとる事が増えて来た。
 その日も部屋で食事をとるつもりでいると、ドイツのカメラマンに引っぱり出されてしまった。
 子どもの写真を撮って旅をしているので、僕の写真も撮りたかったらしい。少し面倒だとは思ったけど、写真の一枚くらいで済むなら構わないと思って、笑顔を作って被写体になった。
 1回だけシャッターを切った彼は、少し唇をきつく結んだあと、作り笑顔で「アリガトウ」と言った。
 彼はやたら自己主張するタイプではなかった。しかし柔和そうに見える青い瞳は、人の気持ちさえも見抜いているようだった。
 少しだけこのドイツ人に興味が出た僕は、食事のあともリビングに残って、夕べ録画しておいたアニメを見ながら、彼の様子を盗み見ていた。
 録画したアニメは、女子中学生のちょっとエッチで派手なアクションがウリのアニメなのでクライマックスになり、戦闘が進むにつれて、女の子の肌が露出される。
 火炎放射で、服だけ焼けて火傷1つないって一体どんなんだよ。
 弾丸をよけながら突き進む反射神経があれば、銃なんて持つヤツいないよ。
 そんな感じで突っ込みどころ満載のアニメだけど、人気は割とあるみたい。僕はそれほど気にするシーンでもないと思って見ていた。
 感動もなにもなくただ見ていた。
 僕の後ろから、アニメを見ていた彼が声を掛けて来たのは、アニメのエンディングが流れてる時だった。
 途中で声をかけなかったのは彼なりの気遣いだったのだと思う。
 
「このアニメはどうして少女が闘うの?」彼は少しキツい口調で僕に英語で質問した。
 そんな事を気にしてアニメを見た事なんてないし、そんな答えをいつも準備してるわけでもなかった僕は、返事に困った。
「オンナノコガ……」彼は、同じ質問を日本語で繰り返そうとした。
「いや、質問がわからないんじゃないだ。考えた事なかったから考えてるだけ」そう英語で返事をすると、彼は少し安心した表情をした後、僕の返事をじっと待っていた。そんなに興味を持たれてもそんなたいそうな返事は出来そうにない。

「魔法少女とか女の子が敵と闘うアニメは沢山あったから、あまり疑問に感じた事がなかった。どうしてだろうね?」返事にならない返事を返すと、彼は少し落胆した表情を浮かべて、彼は質問を変えた。

「いま、幸せなのか?」彼は僕を真っ直ぐ見てそう言ったけど、そんな事を意識した事もなかったし、真面目に考えるのは恥ずかしい気がしてた。
「May be....」そう答えるしかなかった。
 彼はそれ以上、質問を繰り返さなかった。


 一ヶ月の滞在予定だった彼は、昼間近所を散策しながら写真を撮り、帰ってくるとパソコンで写真の整理をするけど、いい写真が撮れないらしく、表情は沈みがちだった。
「いい写真撮れないのですか?」少し気になって、声を掛けてみた。
「こんなに平和なのに、日本の子どもたちは何かを怖がっているように見えます」彼に言わせると、なにかに遠慮しながら笑っているように見えるのだそうだ。そう言われると、僕自身も思い当たらない事もない。
「他の国の子どもたちは、ちゃんと笑うんですか?」すこし皮肉を込めて聞いてみた。
「家族と一緒に過ごしている子どもたちは、普通笑っています」
 意味がわからない。家族が一緒なのはあたり前。なのになんの違いがあるのだろう?
 僕の不服そうな表情を見て、彼はカバンから一冊の色あせた雑誌を取り出した。
 その本が、いま僕の机の中にある写真週刊誌なのだけど、最初にその雑誌のページをめくった時、少し寒気がした。
 虚ろな瞳の少年。
 年齢はきっと僕よりも下だ。
 胸のあたりに抱えている銃は、丁度のサイズなので、少年用に作られたモノだろう。
 何人もの少年が撮られているが、笑っている少年はだれもいない。
 少女も何人かいたが、ほとんど赤ちゃんを抱えている。
「この少年達のうち何人かは、自分で親を殺してる」彼は唐突にそう言った。
「……」
 さらわれて来た子ども達は、家族を守る為に銃を持たされ、国を守るために組織に組み込まれ、組織への忠誠を示す為に自分の親を殺すように命じられるらしい。
「それは全部、私が撮った写真です。その写真でギャラを貰い、賞も取った。しかし、少年兵となった彼らは何も変わってない」
 ドイツ人カメラマンは、下を向いて、吐き出すように涙を流し、泣いた。
 雑誌のページをめくると、敵陣からの弾丸で、踊るように命を散らす少年の写真が目に入った。
 子どもが闘うという事はこういう事なんだ。決して夢物語でも、空想の世界でもない、そういう現実がまだ続いている。その写真の少年の叫びが、聞こえて来た様な気がした。
 結局僕は、それ以上ページをめくる事が出来なかった。何も知らなかった自分がとても恥ずかしく思えた。
 
「いま、幸せなのか?」彼は僕を真っ直ぐ見て、あの時と同じ質問をした。
「とても幸せです」しっかり顔を上げて彼に向かってそう言った。
「私は少しだけ世界を変える事ができた。とても嬉しいよ。ありがとう」彼は僕の目を真っ直ぐに見てそう言った。


一ヶ月後、彼は旅立っていった。
僕の机の上に、写真週刊誌とメッセージを残していった。

「また来るまで、預かっておいてくれ」