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夜明け前のよたか

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夢っていくらで買えますか?

よたか2014.10.05 20:00:00

「あのー、すいません……この右から2番目にある『夢』っていくらで買えますか?」
「えっと、こちらの夢ですね。3,000円です」薄暗い店内の低いショーケースの向こうにいる若い女性は、夢のパッケージを見ながら背中を向けたまま答えた。
「割と安いですね。どんな内容なんですか?」買う以上、商品の内容を聞くのは消費者の権利だから、そう彼女に言うと、彼女は一点もので、内容が解ると価値が半減するので教えられないと答えた。
 それはもっともな話し。
 夢なんて先が解らないのも1つの価値なのかもしれない。

「1万円くらいでおススメの夢はありますか?」今日の予算を上限を彼女に伝えると、彼女は笑顔を1つ作ってショーケースの中から紫色のパッケージを出した。
 著者もメーカー名も何も書いてないパーッケージに不安を掻き立てられた。
「これは……?」
「10年くらい前の“夢”なんですけどね、著者は言えませんが今とても売れてる“夢作家”の方ですよ」
「という事は、有名夢作家の“同人夢”時代の夢なんですか?」思わぬ掘り出し物に少し興奮してしまった。
「まぁそう言う事ですね。ただその方が若い時の“夢”なので、荒削りで必ずしも出来がいいとは限りませんけどね。言っちゃうとマニアの方向けですね」彼女の口は少しもったいつける様にそう動いた。
「解りました買います」そう言って、紫色のパッケージを手にして『虎の夢』を後にした。

 家に帰り着くまで、パッケージを開けるのを我慢するのが大変だった。もし途中でパッケージを開けてしまうと、大変な事になる。電車の中で居眠りしてる人はみんな夢の影響を受けちゃうし、おきてる人でも油断してる人はそのまま眠ってしまう事もある。
 そうした事故を防ぐ為に“夢”のパッケージは個室でしか開いては行けない事になっていた。
 でも、どんな夢なんだろう。宇宙を駆け巡るSFファンタジーかな? それともハーレム物かな? 10年前だと規制が厳しくなる前、しかも同人時代の“夢”なので、かなり期待が膨らむ。おっと股間も膨らむ。抑えて抑えて。

 やっと家に帰り着いて、『夕食だよ〜』と告げる母親の声を振り切って、速攻で自分の部屋に入る。ベッドに横になって紫色のパッケージを開けた。すぐに深い眠りに落ちた。眠りが浅くなるまで“夢”を見る事ができないので少し時間がかかるのだけど、眠っているのでさして気にならない。さて、どんな夢なんだろう夢が始まるのを待っていた。

 ソコは学校。絵を描いている少年に声を掛けた。少年の絵はとても抽象的で何か解らないのでそれを指摘すると少年は「僕に関わらない方がいいですよ」と言った。
 学校を出ると、“影から白い手”がのびて足を掴んだ。そのまま倒れて自動車事故で死んでしまった……。あれ?

 次の場面では、木造船の上。嵐でもないのに、大きく揺れている。空からは3本足の大きな鷲が何羽も襲って来る。周りの人たちは大きな鷲にもてあそばれる様に宙に舞いながら喰いつばまれていく。逃げ場がない船の上を走り回っていたが、結局捕まって体をバラバラにされてしまった。最期に見たのは、鷲が自分の内臓を引っぱり出す所だった。
 
 次の場面は、日本の山村。神社で村人が笑顔で作業を続けている。そう書くと普通の風景なんだけど、村人の手は血で真っ赤になり、その血塗られた手のママ炊き出しのおにぎりを食べている。
 あぁ、この風景覚えがある。『死鬼』だ。という事はこの“夢”はホラー作家の『大野亡都美』。今までの展開からすると、多分吸血鬼なんだろうなあの村人が追いかけて来るんだ。
「おや、あそこにも吸血鬼がいるわよ」「さっさと片付けちゃいましょう」「そうね殺っちゃいましょう」
 そう言いながら村人が、鍬や鎌を抱えて向かってくる。夢の中でなかなか走れない。
 そして、そのまま捕まり、村人たちは畑を耕すように鍬を振り下ろす。
 夢だから痛くない。だけど意識もハッキリしてる。体から内臓が飛び出すたびに、手足が千切られるたびに心が壊れて行きそうだ。
 規制前の作品だけあって、内容がエグすぎる。自分の腸とか引っぱり出されて解体されても意識あるとか酷すぎる。最後に初老の婦人がズボンとパンツを脱がし、思いっきり握って引っ張り上げて根元から鎌で切り落とした。

 やっと眠りから冷める事が出来た。
 体中ぐっしょり濡れていた。一瞬“血”が溢れていると思ったけど、寝汗だったので安心した。
「まさかホラーだったなんて」ちょっとキツイと思いながら、まず夢のパッケージを閉じて、シャワーを浴びた。とんでもない夢を買っちゃったよ。時計を見ると、まだ夜の9時をまわったところだった。
 リビングに行くと母親が「酷い顔してるわね。大丈夫?」と聞いて来た。もう大丈夫だとだけ言ったあとお昼ご飯も食べてなかった事を思い出した。
「まだご飯食べられる?」
「あんたすぐに自分の部屋に行くから、食べて来たと思ったわよ。お鍋の残りがあるから暖めて上げる。ちょっと待ってて」
「ありがとう」そう言って、キッチンのテーブルに座って母親が食事を出してくれるのを待った。
 つかれた。寝ててもつかれた。あんな夢はちょっとゴメンだ。でも、あの夢って上手く闘えば勝てるのかな。でももうゴメンだ。
 そんな事をつらつら考えていると、母親が暖めた鍋を持って来てくれた。くれた……。
「おまたせ。もうコレだけだから全部食べてね」
「あ、あぁっ。命掛けてたべるよ」
「なによそれ」

 母親はあきれてリビングに戻って行った。
 ひとり残されたキッチンのテーブルの上には、“モツ鍋”が置かれていた。

 あぁ、命がけで食べるよ。かあさん。

<了>