よたか2012.11.17 20:00:00
引っ越し先に「ネコ娘」が住み着いていた。「あの、君は?」彼女に聞いた。
「あれ? 見えるんだニャー。こんにちは。仲良くしてニャー」
うずくまる様に丸くなって居た彼女は、顔をこちらに向けてそう言うと、一回大きく伸びをして、立ち上がった。
白いAラインの薄い生地のワンピースから長く伸びた白い素足。
ネコのシッポも、ネコ耳もついてないけど、限りなく金色に近い茶色の瞳はネコそのもの。肩のところで切りそろえた滑らかな茶色の細い髪の毛が窓から差し込む日の光でキラキラ輝いてる。
目の高さが同じくらいなので、身長は170センチくらいだろうか? もっと高いかもしれない。
彼女は、音も立てずにすばやく近寄って、しなやかな体を摺よせる。
女性だと思うと少しはドキドキするんだろうけど、なんとなく、ネコ、白ネコだと感じてたので、それほど気持ちが昂る事もなかった。
それとも、見た目が十代半ばの少女だったからかもしれない。
「あなたは、ネコ大丈夫な人ニャ?」覗き込む様な瞳から、小動物特有の愛らしさが滲み出る。
「特にスキじゃないけど、アレルギーとかじゃないから側に居ても大丈夫だよ」
「よかった。じゃ、このまま居てもいいかニャ?」
「えっと、四六時中見えたりするのかなぁ?」
こういった類いの“モノ”たちは、側に居ても別の世界のモノなので、側に居る事にならないし、ずっと見ずにすませる事だってできる。
つまり、気にしなければ何も影響ないし、気にすると必要以上に“うつつ”に影響がでてしまうんです。
「ちょっと相談したいから、少し席を外してくれる?」
「いいニャ」そう言って、ネコ娘はベランダを飛び越して姿を消した。
「どうなんでしょう彼女」
私には向こう側の世界の事について、相談できる相手が居る。たまに呼び出して相談するんだけど、それが一体誰なのか、どうしてその相手を知ってるのかを憶えてない。
「悪いモノじゃないし、あの娘がいると、悪いモノも来ないよ。かと言っていい事するわけじゃないよ」
そう返事をもらった私は、彼女の帰りを待った。
引っ越した部屋のエアコンを調整してる最中、ベランダの手すりに彼女が座ってた。
「入ってもいいのかニャ?」
人懐っこい笑顔を浮かべて、聞いてくる。
子どもの頃、飼っていたネコと彼女がだぶった気がした。
「居ていいよ」
そう言うと、彼女は一回だけニコッと笑うと、ベランダ側の大きなサッシから部屋の中に入って、スーッと姿を消した。
「ありがとう……」
それから「ネコ娘」を見る事はなかったけど、新しい部屋は思いのほか居心地よかった。
ただ、やたらとネコがやって来て、気がつくとベランダに5,6匹たむろしててる事がある。その気はないのだけど、なんとなく、ネコの蚤とりが日課の1つに加わった。
<了>