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夜明け前のよたか

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雑木林の秘密基地

よたか2012.11.20 20:00:00

 ある晴れた夏の日、ミヨちゃんは白いワンピースに、大きな麦わら帽子をかぶって、お菓子屋さんに行った。
 ミヨちゃんが居るとこは、田んぼや雑木林が残ってるくらい都会ばなれしたところだった。

 ミヨちゃんが、雑木林の側を歩いていると、雑木林の中からなにやら声が聞こえます。ミヨちゃんは最初人の声だと思ってましたが、どうやら違うみたいです。

 ミヨちゃんは何の声なのかとても気になってましたが、そのままお菓子屋さんに行く事にしました。少し恐かったのでお菓子屋さんまで駆け足で行きました。

 お菓子屋さんには、ちょっと体のおおきなケンちゃんと、おとなしいけど優しいユウ君がお菓子を買って遊んでいます。ミヨちゃんは、棒付きキャンディーを一束買って、茶色の袋に入れてもらいました。

 ミヨちゃんが雑木林の声の事を二人に言うと、ケンちゃんが「よし、見に行ってみよう!」と言い出しました。

 ミヨちゃんは恐かったけど、ケンちゃんが行くなら大丈夫だと思って一緒に行く事にしました。ユウ君は「大丈夫だよ」と言ってミヨちゃんの手を握ってくれたので、ミヨちゃんはちょっと嬉しくなりました。

 3人が雑木林まで行くと、風が葉っぱを揺らす音だけしか聞こえません。

 3人が、勇気を出して、雑木林の中に入ると風の音にまぎれて、何かの声が聞こえてきました。その声は雑木林の奥から聞こえて来ます。

 3人がゆっくり歩いて行くと、声はどんどん大きくなります。女の人の様な声だったり、知らない動物のような声に聞こえたりします。

 ユウ君が、ミヨちゃんの手をギュッと握ります。
 ミヨちゃんは、おしっこがしたい感じがして、背中がゾワゾワしました。

 声はまだ聞こえてきます。

「誰かいるのか!」ケンちゃんが我慢できずに大声を出すと、声はピタリと止まりました。
「誰かいるの?」ミヨちゃんも声を掛けます。

 すると、向こうの大きな木のあたりでゴソゴソ、物音がします。
 ソコの木には、3人が秘密基地ごっこをする時に使う大きな穴が空いてました。物音はソコからしてるみたいです。

 3人が走ってソコへ行くと、大人の男の人と女の人が、半分はだかで抱き合っています。ミヨちゃんはなにかいけない感じがしました。ケンちゃんと、ユウ君はジッと見ていました。
「これって、あれだよね……」ユウ君は少し嬉しそうに言いました。
「きっとそうよ。そうなのよ。今度は誰が行く?」ミヨちゃんも嬉しそうにはしゃぎます。

 風が止んで、弱い雨が降って来ました。パタパタと、雨が葉っぱを叩く音が聞こえます。

「今だれかいたか?」
「声がした様な気がするけど、誰もいないわね」
「こんなところ、誰も来ないって」
 2人の大人は、3人が居る事がわからないみたいです。
 
「今度、僕が、行っていいかなぁ」3人の中で一番長い時間待っている、ケンちゃんが言いました。
「いいわよ」ミヨちゃんが言いました。
「今度はちゃんと生まれられるといいね」ユウ君が言いました。
「うん。二人ともありがとう。先に行ってくるよ」ケンちゃんはそう言うと、2人の大人の前に立ちました。でも大人達にはケンちゃんが見えません。

 女の人が、悲鳴みたいな声を上げた時、ケンちゃんの姿は女の人のお腹の中に消えて行きました。

「良かったね。ケンちゃん、きっと“赤ちゃん”になれたんだよ」ミヨちゃんが喜んで、ユウ君の手をギュッと握りました。
「ケンちゃん、ずっと生まれて、走り回りたいって言ってたもんね」ユウ君も嬉しそうに言いました。

 雨が少し強くなって来ました。雑木林の中にも雨の雫が落ちて来ます。

「どうしよ、雨が強くなって来たわよ」
「しかたねーよ。もう少しココに居ようよ」
「バカね、あんたとの事がバレたら大変なのよ。早く帰らないと」
「わかったよ。じゃ、服着ろよ。そろそろ行こうか」
「でもね、ちょっと今日いつもと違う感じしたのよね」
「違うって?」
「出来たかも……」
「出来たって、そんな、生んじゃだめだよ。バレたらココに居られないよ」
「わかってるわよ」

 そう言いながら、二人の大人達は、別々に雑木林を出て行きました。
 ますます雨が強くなって、雑木林は水浸しです。
 
 ミヨちゃんも、ユウ君も、悲しい気持ちになって動けませんでした。雨にぬれて体が冷える感じがしました。2人にはまだ体温がないけど、とても寒いと感じました。

「ケンちゃん、また……」ミヨちゃんはココまで言うと、何も言えません。
「仕方ないよ……」ユウ君はミヨちゃんの冷えきった肩をギュッと抱いてそう言いました。

 夏の雨は少し弱くなって来ました。

<了>