よたか2014.11.07 23:12:17
どこにでもありそうな弱小デザイン事務所のお話です。過度な期待はしないでください。
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「あんたのデザインさ、地味だから評判悪いのよ」
事務所に帰って来た女性が、若い男性に向かって投げ出すように言った。
「社長、でもですね、あの会社はエコをコンセプトにしてるので、アースカラーを基本にデザインした……」
男性が最初にやったデザインコンセプトの話をしてる途中で、女性は手のひらを大きく広げて発言をせき止めた。
「えぇ、言いましたよ。言いました。茶系から深緑を基調にしたデザインにしようって言ったわよ。でもね、コレはないんじゃない」
そう言いながら女性は、A3ノビサイズにプリントされたデザインラフを男性の目の前に広げた。
「まず、このモチーフはなに? この茶色の大ネズミ。なんで茶色に塗っちゃうのよ」
「それは、ビーバーです。適当に木を倒して、森の風通しを良くして、川の流れを完全にせき止めないダムを造るなんて、とってもエコな動物じゃないですか」
「エコなのはわかったわよ。でもね、クライアントのコンセプトにあわないでしょ」
「マンション開発してる会社だし、ビーバーもアリでしょう」
「でもね、この会社の親会社って、大きなダム作ってるゼネコンよ。そこにビーバーなんて出したら、イヤミだって思われるでしょ」
「そ、そうかもですね……」男は言葉につまる。
「他にも言いたい事あるのよ」彼女の文句は止まらない。
「今回のモデルの写真、色黒に補正したのあんたでしょ」
「はい。色黒の方が健康そうなのでそうしました」
「そうかもしれないけど、人の肌の色がみんな褐色だと、日本じゃないみたいでしょ」
「そうなんですけど、どうしてもそんな褐色の肌色が好きなんです」
「なに? あんた『ナディア』世代なの? もっと若いと思ってたのに」
「いま、BSで再放送やってるんで……」
「うるさい! そんな事どうでもいいのよ」女社長の文句は続く。
「この値組のプレート、どうして木目使ったのよ。このマンションが木造8階建てみたいじゃないの。鉄骨に見えないとダメなのよ。地震に弱そうでしょ」
「でも、それは社長が『フローリングだし、木目のイメージも必要よね』って言ったじゃないですか」
「それにも限界があるわよ」
そこまで言うと、女性は一息ついた。
「社長……」申し訳なさそうに男性が女性を見上げる。
「まぁいいわよ。プレゼンは明日の13時からだから、まだ18時間ある。一緒に作り直しましょ」
「社長、寝ないつもりですか?」
「あたり前よ。明日のプレゼンには我が社の命運が掛かってるんだから、落せないのよ」
「たった二人ですけどね」男性は少しだけ口元を緩める。
「じゃあ言い直すわ、二人の未来が掛かってるのよ」女性の目から鋭さが消えた。
「はいはい。わかりました。作り直します」
二人は、さんざん言い合いしたあげく、デザインが完成したのは朝9時過ぎだった。
「ありがとう。これでちゃんとプレゼンできるわ。あなたはもう寝てていいわよ」
「はい、ありがとうござ……」言い終わらないうちに男性は、ソファーに横になる。
女性は、急いでスーツに着替える。
エコをイメージしたのか茶色のスーツに、グリーンのスカーフ。
男性が眠りにつく時見たのは、下着まで茶色にしてた女の心意気だった。
「社長いってらっしゃい……」