よたか2013.08.16 01:00:59
久々の夢の話しです。本当は7時まで寝るつもりだったのに2時に目を醒して書いてしまいました。ファンタジーと言えばファンタジーですが、ちょっと説教臭いかもしれません。===============
周辺諸国統一および蛮族討伐の出陣まであと1時間。
王として陣頭指揮を取るために、私は一人、自室で集中を高めていた。
私の他に誰も居ない夕暮れの部屋。
遠くで部下達が士気を高めようと、雄叫びをあげているのが聞こえる。他にはたいした音は聞こえないとても静かな部屋。
私の他に誰も居ない部屋に『時の神』が現れ未来を予言した。
私はうやうやしく神を招き、信託に耳をかたむける。
『時の神』の予言はこうだった。
1時間後に出陣した私の軍は周辺諸国と闘い、勝ち、従わせて進軍していく。
私の軍の兵士達はみな私の名を挙げて、周辺諸国を従わせる。
兵隊達は、周辺諸国の民の名誉を貶め、財産を奪い、有力な者たちの一族を殺して行く。
家長は言うに及ばず、跡継ぎとなる男子や、女達、幼い子どもたちまでも殺して進んで行く。
その結果、この地域は40年間大きな争いがおきる事は無かった。
私の部下達が、それぞれの地区で私の名を使い住民たちを恐怖で動けなくしていた。
しかし、私の死後それまで押さえつけられていた民衆は立ち上がり、私の名を挙げた者達に対して闘いをくり返した。
私の国は負け続け、私の部下達は断頭台に送られ、私の一族・家族も磔で処刑された。
その中にはまだ見ぬ幼い孫娘も居た。
私の国は、周辺諸国からの猛攻に耐えきれず、地図からも名前を消した。
私の名は、最も残虐な王として歴史に刻まれた。
神の予言は以上だった。
「どういう事です。一体何が言いたいのですか?」私の問いに『時の神』はなにも答えなかった。そのかわりその問いには『未来の私』が答えてくれた。
「どうもこうもないよ。このまま進めば勝戦(かちいくさ)で万々歳だ。目出たいじゃないか」
「しかしその後、私たちだけでなく、国も滅ぼされてしまいます。それでは何のための闘いか解らないじゃないですか?」
「じゃ『昔の俺』よお前は何のために闘っているんだ」
未来の自分からそう言われるまで、ちゃんと考えた事がなかった。
「今攻撃すれば、領土を広げる事が可能です」という将軍の言葉や、
「豊かな資源を確保すれば我が国は安泰です」という大臣の話ししか聞いて来なかった。
結果的に我が国は豊かになったし、国民の暮らしも裕福になったと思う。
しかし、周りの人々はどうなったのだろう?
本当にコレで良いのだろうか?
ソコへ『過去の私』が現れて私に夢を聞かせてくれた。
「無人島や、人も住めない様な土地の為に、争う時代を終わらせたい」
『過去の私』がそう言った瞬間『時の神』は私の前から姿を消した。
時間は経っていなかった。出陣までには1時間ある。
しかし、大きな変更はできない。
一体どうする?
このまま出陣して、40年の繁栄で終るべきか?
それとも、出陣を取りやめるべきか?
出陣を取りやめると将軍達から不満の声が上がり、変わりの王を立てようとするかもしれない。大臣達も黙っていないだろう。
とは言っても、40年後この国が無くなってしまうのでは何もならない。
私はこの国を預かっているだけだ。良い形で次の世代に引き渡す義務がある。
蔑まれ、焼け野原となったあげく、国をなくすわけにはいかない。
いくら考えてもまとまらない。しかし時間は過ぎて行く。
もし、私が今回の出撃で周辺諸国と対等の講和を結べばどうだろう?
『殺さない、辱めない、搾取せず、自治も奪わない』
それが出来れば、40年後、私が死んでも周辺諸国から攻込まれる事はないのではないだろうか?
出撃の30分前、私は兵達の前で士気を高めるための演説をする事になっている。
私はそこで、今回の出撃中止と、外交を強化しての紛争解決を発表した。
突然の発表に、将軍や大臣達は驚いて、私に飛びかかろうとする者も居た。
周りでは『王が乱心された』と噂が飛び交っていたほどだったが、私に逆らうほどの者は誰一人としてその場には居なかった。
これから、城内は大変かもしれない。私の命を狙う者も出てくるだろう。
しかし、争いで物事が決まる世界はどこかで終らせなければならない。
そのための『礎』になる覚悟は出来ている。
未来に繋がるなら『一粒の麦』でもかまわない。
覚悟を決めた私がその場を退場しようとしたとき、兵の何人かが私の名を叫んだ。
驚いて、振り返ると沢山の笑顔がそこにあった。
少数の兵の叫びは徐々に大きくなっていく。
多くの兵たちは争いなんて望んでいなかったんだ。
シュプレヒコールの中、そんな事すら解ってなかった自分を、私は恥じていた。