よたか2012.11.07 10:34:34
即興小説トレーニングというサイトができたので、毎日一作ずつアップする事にしました。この作品は、時間制限に間に合わずに途中で切られしまって、ウズウズしてたのでとにかく仕上げました。
お題は「左の囚人」なんて難しいお題なんだ……。
囚人と付く以上、監獄になるか、何かに囚われて逃げ出せない状態を表現するかどちらかだと思うけど、後者の場合は、時間的表現出来そうにない。
それで監獄の話にしてみたけど、やっぱりひと捻り欲しい。そこで強制的にラストを変えてみました。
なんとか、三日坊主にならないように努力します。
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薄暗くて、飯もまずい独り部屋。快適とは言えないまでも、それなりに3年ほど過ごして来た。俺の場合ここにいるのは仕方ないと諦めてしまっているので今更騒ぐ事なんてまずない。
騒ぐ体力があるなら、見回りに来た奴にお世辞の1つでも言って夕食の魚が一匹増えた方がずっとマシだと悟り初めて来た。
しかし、1週間くらい前から隣から叫び声が聞こえてくる。「はやく出せ!」とか、「もうココに居たくない」とかずっと叫びっぱなしで、五月蝿くて仕方ない。おかげで俺の静かな生活が乱されてしょうがない。
おかげで俺はここ1週間ほど、少しストレスが溜まりはじめていた。
「隣のやつなんとか静かにならないんですかね?」ある日、見回りに来た奴にこんな事を尋ねた。するとそいつは不思議な顔をして答えた。
「両隣は空き部屋だぞ」
「えっ? でも、こっちのヤツはずっと叫んでますよね」
「いや、誰もいないよ」そう言って愛想笑いだけを残して、面倒くさそうに俺の部屋から離れて行った。
どういう事だ?
いつもいつもコレだけ騒いでるのに『誰もいません』なんて明らかに変だ。俺を追いつめる為の、なにかの罠?
そう思っている時も、隣から叫び声が聞こえてくる。
「出せ! 俺はやってない! こんなところで死にたくない!」
もしかして、俺にしか聞こえない声なのか?
ここには、昔は死んだ奴とかもいたらしいし、その幽霊とかか?
そう言えば、叫び声はどことなく人間の声では無いように聞こえてくる。
だんだん恐くなって来た。落ち着かない。人が通るたびに、聞いてみた「ねぇ聞こえるでしょ。隣から叫び声が聞こえるでしょ」
しかし、言えば言うほど、見回りの目が冷たくなって行くのがわかった。
我慢出来ずに、耳を塞いでみたが声はずっと聞こえてくる。
「俺は死にたくない。 出してくれ!」
その声は、俺の体の中から聞こえてくる様に感じた。日を追うごとに俺は、声に同調しはじめて、だんだんと苦しくなって来た。
不便だったけど、平穏だった日々は無くなり、叫び声に同調するように心が乱れていく。
もうだめだ苦しすぎる……。
許してくれ……。
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同じ建物、少し離れた薄暗い部屋で、苦しんで独房の中を転げ回る男をモニタで確認している2人の男が居た。
「先生、上手く行きましたね」
「想像以上に効果があったようだね。満足だよ」
2人は研究者。刑務所の中で開き直る受刑者が多く、なかなか更正できない受刑者が更正出来る方法を科学的に研究していた。
「ほとんどの人間は『右脳』のフィルタで自分を誤摩化すから、第三者として自分を見つめる『左脳の善意』はとても正直と言う事だね」
「しかし『左脳』にある人間の『善意』にずっと叫ばせるなんてずごいですよね」
「さしずめ『右の囚人』と『左の囚人』と言ったところかな」
「はははっ、なかなか上手いですね」
「はははっ。ありがとう」
談笑しあう二人の向こうにあるモニタには、涙を流しながら転がり続けているひとりの男が映っていた。