よたか2015.08.09 23:00:00
7代目立川談志が生前に『芸人には狂気がなきゃいけねぇ』と言っていたのをインタビューで聞いた事があります。その時は、笑福亭鶴瓶の事を指してそう言っていたのですが、この小説はまさに神谷を通して、狂気を表現した作品だと思います。
常に笑いを考え続けて生きていく。笑いの為なら金も、生活も、挙げ句自分の体も破壊する。好きな女を諦めて、泣いても笑いに執着する。狂気としか言いようがありません。
本当にこんな芸人がいるのかどうか知りませんが、きっと近い感じでモデルになった人はいるんでしょうね。
素人目には松本人志が近いように見えますけど、彼は割と世渡りが上手い様な気がしますので多分違うんだと思います。
神谷を慕いながらも畏怖する徳永の心の揺れは芸人だけのモノではなく、クリエイターや自営業者なら誰でも感じている部分だと思います。自分自身も同じだと思える部分が何か所もありました。
しかし、この作品のすごいところは、徳永と同じだと思いながらも決して彼に共感はしたくないと思わせる部分だと思います。
共感させて物語に入り込ませた方が表現も楽になるだろうし、伝えやすいと思うんですけど、徳永に対してはどこまで行っても嫌悪感しかありません。
『こんな奴と一緒でたまるか』
同族嫌悪かもしれません。でも読み終わったばかりだとそれさえも認めたくないですね。
読んでいて楽しくなる作品ではありませんでした。むしろイラつく事が多くて読みはじめたのを後悔さえしました。
だけど、この感情が作中に何度も出てくる『美しい景色の破壊』なのであれば著者に上手くのせられてしまったのかもしれません。ちょっと腹立たしいです。
この小説、腹は立つし、気分悪かった。だけど悔しいけど面白かったです。それでも私にはこれが芥川賞にふさわしい作品なのかどうかよくわかりません。
本屋大賞なら『そうだろうなぁ』とも思ったでしょうけど、ちょっと違う感じがしないでもないんです。
まぁそんな事どうだっていい事なんですけどね。
最後になりましたけど、この作品のやり取りを真似てボケてみたり、突っ込んだりしているんですけど、すでに2日ほどで家族に鬱陶しがられております。
笑いの道は険しいですね。