夜明け前のよたか 掌編・書出し

よたかが書いた作品を掲載中です。

テロリズマ・パリよたか

 今年もパリにテロの季節がやって来た。
 8月のパリと言えばテロ。テロと言えばパリというくらい、テロはパリの名物です。この10年の間に世界中の組織がパリに集まってきました。
 宗教の過激派や、極右の実行部隊。対するのは正規軍や、パリのレジスタンスたち。中にはサバゲー同好会や、コスプレしたアニオタたちまでが実弾を撃つためにパリまでやって来たこともありました。
 パリでテロが増えはじめていた頃、警察や軍は躍起になって取り締まっていた。そんな時に解決策のひとつとして、日本の代理店がフランス政府に企画を持込んでから事態が変わりました。

『テロを観光にしましょう!』

 フランス人の誰もが『平和ボケした日本人の考えること』だとあきれた。しかし内容を聞いたフランス政府は賛成した。身の安全と財産の為にパリ市民も賛成した。
 こうして毎年8月に『テロリズマ・パリ』が行われることになった。そして今年は記念すべき10回目を迎えた。
 今年参加するテロリストと正規軍はあわせて6組織、極右実行班『鷲の爪』、砂漠の過激部隊『砂漠国』、アジアから初エントリーの『半島軍』、『NATO正規軍』、『フランス陸軍』、そして3年連続で勝ち続けている『パリ・レジスタンス』。
 一般人の保護と、負傷者救護のために自衛隊も派遣されていた。

「建物の3階より上に居てください。下だと流れ弾にあたる危険があります」
「セーヌ川沿いからコンコルド広場、シャンゼリゼ通りが一番の激戦地になると予想されますので、付近のホテルに滞在する方は部屋から出ないように」
 自衛隊の『テロリズマ・パリ対策部隊』が日本からの観光客に繰り返し呼びかけた。
「去年はテレビで見ていたけど、やっとリアルで観れるぜ」
「本当は『レジスタンス』で参戦してみたいけどね」
「ムリムリ。おれらフランス語ムリじゃん。それに『半島軍』と間違われて撃たれるよ」
「それだよな。なんであいつら来ちゃったんだろう」
「そりゃ勝った時の権利目当てに決まってるだろ」
「そうだよな。この『サバゲー』に勝ったら、パリの観光収入の1年分の権利が手に入るんだもんな。だいたい100億ドルくらいだっけ?」
「街の改修とかしないといけないから、50億ドル程度になるんじゃないかな。あと、実弾使うんだから『サバゲー』いうな」
「そうだよな。普通のサバゲーじゃこんなに観光客来ないよな」
 パンッ! パンッ! 
 タタタタタッ!
「おっ、始まったみたいだぞ。どことどこがやってる?」
「テレビの中継だと『鷲の爪』と『半島軍』が交戦してるみたいだ」
「白人優位の国粋主義者だから、最初に有色人種に目を付けたんだよ」
「『砂漠国』は下水道を使って移動しているらしいぞ」
「どうしてわかるの?」
「パリ市民が『レジスタンス』をサポートするため、SNSに流してる」
「パリ市民は『レジスタンス』に協力的なんだな」
「あたり前じゃん。ホームだもん」
「ほとんどの武器はアサルトライフルだね。グレネードとかバズーカは使わないの?」
「大きな火力で街を壊すと後の修理が大変だから、ほとんど小銃みたいだね」
「下の河岸でまた始まった。すげーなぁ。あれっ。1人倒れた。どこかに狙撃手がいるぞ」
「ほんとかよ、このホテルにいたらココも狙われるぞ。重機で一斉掃射されたら防弾ガラスでもムリだって。窓から離れた方がいいぞ」
「おい、テレビで言ってるけど、このホテルの屋上に『半島軍』の狙撃兵がいるらしい」
「やべ『鷲の爪』の奴ら撃ってくるぞ!」
 タタタタタッ!
 ヒューッ……。ガーン。
「うわーっ」
「大丈夫ですか? 自衛隊です。ダメか……。日本からの観光客が2名、グレネードの爆発に巻き込まれて重体です。これより非戦闘区の病院へ搬送します」

 こうして始まった戦闘は7日間つづいた。それは単発のテロというより、すでに市街戦だった。
 ロンドンのパブでは各陣営のオッズが発表されて盛り上がっていた。一番人気は『レジスタンス』の1.3倍。最高オッズは『半島軍』の30倍だった。
 戦闘は予想どおり全陣営が『半島軍』を集中攻撃して制圧し、『NATO軍』と『フランス陸軍』が共闘して『鷲の爪』を制圧した。ずっと戦力を温存していた『レジスタンス』はパリ市民の情報を元に『砂漠国』の本拠地に踏み込んだ。
 『NATO軍』と『フランス陸軍』が『レジスタンス』を側面支援し『砂漠国』を追いつめて制圧したあと、そのまま非戦闘区へ離脱していった。そして残った『レジスタンス』が勝利することになった。
「パリを守ったぞ!」「フランス万歳!!」パリの街に市民たちの歓声が上がった。
『ラ・マルセイエーズ』がパリの街中に響き渡った。

 パリ郊外の非戦闘区の白い邸宅で、日本人男性たちが体をソファーに預けて『テロリズマ・パリ』の中継を見ていた。そこへフランス人の中年男性が現れた。
「みなさん。ごくろうさまでした」
 日本人男性たちは急いで立ち上がろうとしたが、フランス人男性が右の手のひらを広げて制止した。
「あっ、ありがとうございます。だい……」フランス人男性がを指を立てて「シーッ」と、唇を抑えた。
「いま、肩書きはどうでもいいじゃないか」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「今年も市民がパリを守った。フランスの名誉が守られた。素晴らしい結果じゃないか」
「そうですね。コレだけアピールすれば、そうそうパリに手を出せませんからね」
「軍も武器の在庫処分ができるから助かるよ。ところで、こんなに危ない『ショー』を観るために世界中から人が集まるなんて、私は信じられんよ」
「テレビやネット配信の視聴率もかなり高いですよ。大きなスポーツイベントが少なかった8月なので、世界中のメディア関係者も喜んでます」
「興行主の君たちにも、結構な放映料が入るんだろ」
「まぁ、入ってはいますけど、参加してくれる陣営への『見舞金』とか、戦死者への『年金』なんかも少なくありませんからねぇ」
「そんなの、収入の1割もないんじゃないのかね? 来年は南米からも呼ぶつもりなんだろ」
「今の世界、適当なところでガス抜きしないといけないじゃないですか」
「君たちは武器を売らないタイプの『死の商人』だな。まったく」
「本当に人聞きの悪い事を言われる」
 ルルルルル〜
「はい私だ。壊れたビルの建て直しの件か? いいだろ便宜を計っておく。いつもの口座に入れておいてくれ。後は秘書と話してくれたまえ」
「あなたも、人のことは言えませんよ」
「そうかな。ふふふっ」

 テレビからは『ラ・マルセイエーズ』が流れていた。

 〈了〉