夜明け前のよたか 掌編・書出し

よたかが書いた作品を掲載中です。

春若 恵瑠 《はるも える》よたか

ためしに書いてみた。
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《あなたは当選したら何ができるの? 聞かせてくれないかしら?》

 衆議院選挙が公示される1週間前〝モエル〟がソーシャルネットにこんな書きこみした。候補予定者達は彼女に関わりになるのを恐れて無視するつもりだったが、〝モエル〟は複数の候補予定者、政党の公式アカウントに投げつけた。
《日本の為、自分のできる事をやる》《現政権の暴走を止める為に》《原発を止める為に》《戦争を回避する為に》……。
 指名された候補予定者たちは、美辞麗句を並べ立てて反論したが〝モエル〟は返す刀で切って捨てた。

《〝所属政党〟の言いなりなのに、あなた個人に何ができますの? あなたでなくてもよろしいんじゃなくて》
《いや、私だから政党から協力を得て実行する事ができるんです》
《え〜っと。親方にお伺いを立てて、やってもらうって事かしら?》
《歪曲した言い方ですけど、それができるのは私だけだから、私に価値があるんです》
《あら、そうかしら? 所属政党の他の方でもできるんじゃございませんこと? 他の選挙区でも、他の方が同じような事を言ってみえますわよ》
《だからそういった同志とともに実現するから意味があるんだ》
《そうですわね。つまり〝同志〟の方が実行されるのでしたら、〝あなた個人〟にどれほどの価値があるのでしょうか?》
《だから、この選挙区では私しか……》
《やっぱり、あなたでなくても良かったんじゃありませんこと? どうしてあなたが推薦されたのでしょう?》
《それは、多くの方が私を支持してくださったので出馬を決意し……》
《多くの方ね。多くと言うのは全体の半分以上ということかしら?》
《半分? なんの?》
《ですから全体の半分ですわ。有権者の過半数は欲しいですわね》
《過半数なら投票していただけると思います。というかお願いしております》
《あら? 投票率が6割もないのに、有権者の半分から投票してもらうなんてすごいですわね》
《えっ?》
《投票率6割として、その半分5割から投票されたとしても全体からみれば3割足らず。それが〝多くの方〟なんて、少し感覚がずれてますわね》
《いや、それが今の選挙制度で……》
《そういうことに疑問を持たれなかったんですの?》
《そう言った矛盾を解消するためにも、私は政治家として生きていくんです》
《矛盾を受け入れて当選した政治家が、矛盾を正せるのかしら?》
《しかし、それしか方法がないんです》
《やっぱり頭が硬いんじゃございません? たかがこの程度の事が解決できないなら、あなたに政治家の資質はなさそうだわ》
《しかし、政党からも推薦を受けて……》
《だったら、その政党も政を行う資質がないんですわ》
《じゃ、この矛盾を解決するためにあなたならどうされるんですか?》
《政党解体と言いたいけど、無理なので選挙区の廃止と、政党への直接投票かしら》
《それが何の解決になるんだよ》
《ひとつは候補者と政党の選挙公約の食い違いを防げるわ。もうひとつは選挙格差が完全に無くなるのよ。うまく行けば政治屋さんもいらなくなるかもしれないわね》
《そんなの無理に決まってるじゃないか》
《そうよね、あなたみたいに何も考えてない政治屋さんしかいませんしね、きっと無理でしょうね》
《政治屋だと》
《あら、違ったかしら?》
《うちの家は、おじいちゃんの代から議員をやっているんだぞ。半端な政治屋と一緒にするな》
《つまり、あなたは三世議員で地盤をそのまま引き継がれたんですね》
《そんな簡単な事じゃないんだぞ》
《まぁそうでしたの。失礼をいたしました。他の根回しが忙しくて政治のことがちゃんと勉強できてらっしゃらないんですね》
《うるさい。ちゃんと勉強してるわ。でもまずは当選しないと何も出来ないから当選することを最優先にしてるだけだ》
《そういうのを〝政治屋〟というんじゃございません》
《……》

 翌日、彼は所属政党から推薦を取り消されてしまった。